研究メモ Vol.5:私の美容師人生を変えた、ある出来事。

美容師の価値

〜美容師は技術職なのか、接客業なのか。〜

こんにちは。
Hair Salon A 美容師研究所のAKIです。

美容師は技術職でしょうか。

それとも接客業でしょうか。

美容師になって25年以上。

今でも時々、このことを考えます。

私の答えは、昔も今も変わりません。

「どちらでもある。」

カットやカラー、パーマなどの技術がなければ、お客様に満足していただくことはできません。

でも、技術だけでは25年以上美容師を続けることはできなかったとも思っています。

実は、この考え方には大きなきっかけがありました。

今日は、その話をしたいと思います。


私の美容師人生を変えた場所

美容師になって間もない頃、私はサロンで働きながら、休日を利用して病院へ訪問美容に行っていました。

そこには、寝たきりの方や、自分で身体を動かすことができない方、言葉を話すことが難しい方がたくさんいました。

ご家族からは、

「母を昔のような髪型にしてください。」

「父を格好良くしてください。」

そんな希望をいただきます。

でも、現実は想像以上に厳しいものでした。

お風呂は週に一度。

しかも少し熱があるだけで入ることができず、一か月近く髪を洗えない方もいます。

寝たきりの状態では頭を自由に動かせず、長い髪は絡まり続け、ドレッドヘアのように固まってしまうこともありました。

汗や皮脂で頭皮がただれてしまう方もいました。

さらに、美容師は二人。

患者さんは百人近く。

昼食後の限られた二時間で、一日に五人ほどが限界でした。

ベッドの上で身体を支えながら、一人でカットをする。

左腕で身体を抱え、左手で髪を持ち、右手でハサミを動かす。

人の身体は、力が入っていないと本当に重たいものです。

デザインを考える余裕よりも、

「少しでも衛生的にしてあげたい。」

その気持ちが強くありました。

だから私は、男女問わず短くカットすることが多かったのです。


「誰が誰だか分からない」

ある日、ふと思いました。

「誰が誰だか分からない。」

短く切ったことで、おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんな同じような髪型になってしまっていました。

その瞬間、自分の中で何かが崩れました。

私は衛生面ばかりを考えていました。

もちろん、それは間違いではなかったと思います。

でも、それだけでは足りなかった。

その方にも人生があります。

誰かの親であり、

誰かの大切な人であり、

若い頃はおしゃれを楽しみ、好きな髪型があったはずです。

会社で働いていたかもしれない。

誰かに憧れられる存在だったかもしれない。

今は寝たきりでも、その人らしさまで失っていい理由にはならない。

そのことに、ようやく気付いたのです。


忘れられない後悔

その病院では、次の週に行くと、もう会えない方もいました。

「あの時切らせてもらった髪が、最後のカットだったんだ。」

そう思ったことがあります。

もっとその人らしい髪型にしてあげられたかもしれない。

もっとご家族の想いに寄り添えたかもしれない。

その後悔は、今でも忘れることができません。

でも、その経験があったからこそ、今の私があります。


「来てくださる」ということ

訪問美容を経験してから、サロンで働く毎日がまったく違って見えるようになりました。

美容室では、お客様が自分で予約をして、

時間を作り、

わざわざ足を運んでくださいます。

鏡の前に座り、

「今日はこんな感じにしたい。」

と話してくださいます。

以前の私は、それが当たり前だと思っていました。

でも違いました。

自分で美容室まで歩いて来られること。

たくさんある美容室の中から、自分を選んでくださること。

それは決して当たり前ではありません。

だから私は、今でも心の中で思っています。

「ありがとうございます。」


今日のお客様が教えてくれたこと

実は今日も、そんな出来事がありました。

初めてご来店いただいたお客様です。

何軒も美容室を回り、

「グレーにはできません。」

と言われ続けてきたそうです。

私も100%できるとは言えませんでした。

だから正直に伝えました。

「全部ではなく、一部分だけ試してみませんか。」

アンブレラカラーという方法なら、できるかもしれません。

結果は、とてもきれいなグレーになりました。

お客様は笑顔で、

「私でもこんな色になるんですね。」

と喜んでくださいました。

私は改めて思いました。

信頼とは、何でも希望に応えることではありません。

できること。

できないこと。

それを正直に伝えた上で、一緒に一番ベストなお客様が納得する方法を考えること。

その積み重ねが、

「またお願いしたい。」

という気持ちにつながっていくのだと思います。


私が思う、本当に良い美容師

25年以上美容師を続けてきて思うことがあります。

技術は、とても大切です。

接客も、とても大切です。

だから、美容師は技術職でもあり、接客業でもある。

その考えは今でも変わりません。

でも、昔と一つだけ変わったことがあります。

昔は、技術や接客そのものが大切だと思っていました。

今は、その先にある**「信頼」**のために技術を磨き、接客をしているのだと思っています。

私は、10人のお客様に選ばれる美容師でなくてもいいと思っています。

たった一人でも、

「この人にお願いしたい。」

そう思ってくださるお客様がいる美容師。

私は、そんな美容師さんが一人でも増えてくれたら嬉しいです。

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