〜美容師は技術職なのか、接客業なのか。〜
こんにちは。
Hair Salon A 美容師研究所のAKIです。
美容師は技術職でしょうか。
それとも接客業でしょうか。
美容師になって25年以上。
今でも時々、このことを考えます。
私の答えは、昔も今も変わりません。
「どちらでもある。」
カットやカラー、パーマなどの技術がなければ、お客様に満足していただくことはできません。
でも、技術だけでは25年以上美容師を続けることはできなかったとも思っています。
実は、この考え方には大きなきっかけがありました。
今日は、その話をしたいと思います。
私の美容師人生を変えた場所
美容師になって間もない頃、私はサロンで働きながら、休日を利用して病院へ訪問美容に行っていました。
そこには、寝たきりの方や、自分で身体を動かすことができない方、言葉を話すことが難しい方がたくさんいました。
ご家族からは、
「母を昔のような髪型にしてください。」
「父を格好良くしてください。」
そんな希望をいただきます。
でも、現実は想像以上に厳しいものでした。
お風呂は週に一度。
しかも少し熱があるだけで入ることができず、一か月近く髪を洗えない方もいます。
寝たきりの状態では頭を自由に動かせず、長い髪は絡まり続け、ドレッドヘアのように固まってしまうこともありました。
汗や皮脂で頭皮がただれてしまう方もいました。
さらに、美容師は二人。
患者さんは百人近く。
昼食後の限られた二時間で、一日に五人ほどが限界でした。
ベッドの上で身体を支えながら、一人でカットをする。
左腕で身体を抱え、左手で髪を持ち、右手でハサミを動かす。
人の身体は、力が入っていないと本当に重たいものです。
デザインを考える余裕よりも、
「少しでも衛生的にしてあげたい。」
その気持ちが強くありました。
だから私は、男女問わず短くカットすることが多かったのです。
「誰が誰だか分からない」
ある日、ふと思いました。
「誰が誰だか分からない。」
短く切ったことで、おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんな同じような髪型になってしまっていました。
その瞬間、自分の中で何かが崩れました。
私は衛生面ばかりを考えていました。
もちろん、それは間違いではなかったと思います。
でも、それだけでは足りなかった。
その方にも人生があります。
誰かの親であり、
誰かの大切な人であり、
若い頃はおしゃれを楽しみ、好きな髪型があったはずです。
会社で働いていたかもしれない。
誰かに憧れられる存在だったかもしれない。
今は寝たきりでも、その人らしさまで失っていい理由にはならない。
そのことに、ようやく気付いたのです。
忘れられない後悔
その病院では、次の週に行くと、もう会えない方もいました。
「あの時切らせてもらった髪が、最後のカットだったんだ。」
そう思ったことがあります。
もっとその人らしい髪型にしてあげられたかもしれない。
もっとご家族の想いに寄り添えたかもしれない。
その後悔は、今でも忘れることができません。
でも、その経験があったからこそ、今の私があります。
「来てくださる」ということ
訪問美容を経験してから、サロンで働く毎日がまったく違って見えるようになりました。
美容室では、お客様が自分で予約をして、
時間を作り、
わざわざ足を運んでくださいます。
鏡の前に座り、
「今日はこんな感じにしたい。」
と話してくださいます。
以前の私は、それが当たり前だと思っていました。
でも違いました。
自分で美容室まで歩いて来られること。
たくさんある美容室の中から、自分を選んでくださること。
それは決して当たり前ではありません。
だから私は、今でも心の中で思っています。
「ありがとうございます。」
今日のお客様が教えてくれたこと
実は今日も、そんな出来事がありました。
初めてご来店いただいたお客様です。
何軒も美容室を回り、
「グレーにはできません。」
と言われ続けてきたそうです。
私も100%できるとは言えませんでした。
だから正直に伝えました。
「全部ではなく、一部分だけ試してみませんか。」
アンブレラカラーという方法なら、できるかもしれません。
結果は、とてもきれいなグレーになりました。
お客様は笑顔で、
「私でもこんな色になるんですね。」
と喜んでくださいました。
私は改めて思いました。
信頼とは、何でも希望に応えることではありません。
できること。
できないこと。
それを正直に伝えた上で、一緒に一番ベストなお客様が納得する方法を考えること。
その積み重ねが、
「またお願いしたい。」
という気持ちにつながっていくのだと思います。
私が思う、本当に良い美容師
25年以上美容師を続けてきて思うことがあります。
技術は、とても大切です。
接客も、とても大切です。
だから、美容師は技術職でもあり、接客業でもある。
その考えは今でも変わりません。
でも、昔と一つだけ変わったことがあります。
昔は、技術や接客そのものが大切だと思っていました。
今は、その先にある**「信頼」**のために技術を磨き、接客をしているのだと思っています。
私は、10人のお客様に選ばれる美容師でなくてもいいと思っています。
たった一人でも、
「この人にお願いしたい。」
そう思ってくださるお客様がいる美容師。
私は、そんな美容師さんが一人でも増えてくれたら嬉しいです。


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